Special Chamber Concert vol.5 出演者にインタビュー! 

萩原安里紗さん・山内睦大さん

2020年12月23日、京都府民ホールで行うコンサートに出演くださる、若手演奏家お二人にお話しを聞かせていただきました。

萩原安里紗さんは、今年東京藝術大学を卒業されました。京都市立堀川音楽高校を卒業されています。藝大では植村太郎門下だったんですよね。 

山内睦大さんは今、京都市立芸術大学の大学院2年生でいらっしゃいます。荒井結さんにチェロを習っていました。

お二人とも私の母校(京都堀川音楽高校、京都市立芸術大学)にゆかりがあり、音楽でお会いできることを楽しみにしていました!

山内睦大さんとチェロ

まずは、私が初めてちゃんとお話をお伺いをします、山内くんのお話から。

朴「山内くんは、高校の時から荒井さんのもとで習い始めたそうですね。」

山内「楽器を中2の時に初めてチェロを触りました。その後中3でジュニア・オーケストラに入りました。そこで指導されている荒井先生に初めてお会いしました。

元々は、吹奏楽部でパーカッション(打楽器)をしてたんですが、人数が溢れまして…楽器庫にちょうどコントラバスがあったから弾いてみる?という流れで。(これ、吹奏楽あるある、ですよね。余りました、違う楽器やりましょう。なかなか私たちにはない文化なので、固定概念なく他の楽器が吹けたり弾けたりすごいなと思います)それが弦楽器との出会いでした。

 チェロとの出会いは…兄がマリンバをやっていて。若い芽コンサートで荒井さん含む福井のプロの弦楽四重奏と共演したんです。そこで初めて、生のヴァイオリンやヴィオラ、チェロの音を聴き、圧倒されました。それは今も鮮明に覚えています。」

福井県では、音楽を学ぶ福井の中高校生がソロ演奏とプロの演奏家との共演を披露する、若手育成コンサート『若い芽コンサート』が毎年開催されます。今年はたまたま助っ人で私も寄せていただいたのですが、素晴らしい企画でした。結さんも一緒に!

朴「チェロとの初対面、チェロとの出会いそのものが荒井さんなんですね!」

山内「高校になってから荒井先生の元で本格的に習い始めました。

大学は新潟大学の教育学部に、当時は学校の音楽の先生に100%なるつもりで進学しました。しかし時が経つにつれて考えが変わり…自分の知らない、未知の世界・音楽の道を極めたいという気持ちが強くなり、ちゃんと勉強したいと京都市立芸術大学の院に進むことになりました。」

朴「荒井さんが、山内くんは持った時からチェロがハマっていた。と言っていました。なかなかそういう人って少ないんですよね。京芸の院はどうですか?」

山内「荒井先生もすごく応援してくれています。ありがたいです。去年1年目は、何が何だかわからないまま、ついていくのに必死…という感じで過ごしました。本当にいい刺激を受ける環境で勉強しています。」

山内さんは弦楽器奏者でありながら、他の弦楽器奏者の方が経験されないような(弦楽器は物心つく前から楽器を触る人が多いため、その楽器に実際惚れて始めたとかいう経験ですら、記憶にない人が多い。残念な話なのですが。)道のりで、ここまで来ていらっしゃる。そういう、感性に触れることができるのが、私はとても楽しみです。 むしろ山内さんのその生い立ちは今後強みになっていくと思います!

音楽の道

萩原「私も実は教職課程とったんですよね。教育実習も行きました。でも、音楽の世界を知らないと損というか、勿体無いと思い至ったことはとても共感できますね。」

朴「音楽の深みに本当に触れると、その道を諦めるとかそういうことが、ある意味ではなくなります。収入がないかもしれない、とか問題はあるのですが、さらに勉強して行きたいと思う気持ちはずっと強くなるというか。

萩原さんは、沖縄から京都市立堀川音楽高校に通うのがきっかけで中3から京都にいるんですよね。」

萩原「それこそ私も、沖縄では音楽環境が満足いくものではなかったので、京都で一から音楽について学びました。オーケストラで弦楽器は二人ずつ譜面を見るとか、そいうところから!京都に育てていただいたことがとても多いので、今回のコンサートはとても運命的なものを感じています。このタイミングで京都で弾くこと、とてもたのしみにしています。」

室内楽の醍醐味

萩原「大学で4年間弦楽四重奏をしていたんですね。そこから感じたことですが、みんなそれぞれ捉え方があって。それぞれの音楽や精神、考え方…それを統一するとか一緒にすると言うことではなく、それぞれもっているものを、特別には変えずに形態を変化させて、他の人たちのそれらと、(いびつでも良いから)重ねた時に、一つの生き物のようになる瞬間があって。何度か経験したんですが、その時に、『あ、これ本当に生きているだな』と生物のように感じたことがあって。それは本当に気持ちよかったです。」

萩原さんが藝大時代から組む YEAHQuartet

朴「そこに至るまでは葛藤だとか、大変なことも多かったでしょう。」

萩原「そう、本当に。そして、そういうものは『やろう』と思ってできるものではなく。もちろんそういうものを目指すのですが、簡単に到達できるものではないんですよね。でも、たまにその瞬間を味わってしまうとやっぱり、

室内楽はやめられないな

と、思います。

 揃えようと思わない、とたくさんの先生に言われましたし、自分も大きな学びの一つでした。合わせようと思ってしまうと、途端に平坦、平凡、安全な世界になってしまうんですよね」

朴「それ、面白いです。私もそうでしたしとてもよく分かります。また、海外にいくと違う価値観とぶつかりさらによく分かるのですが、その部分って日本の伝統や教育から来ていることなんですよね。合わせようとして恐縮し、遠慮しているのって割と日本人は多いと思います。でも、それが良いところでもある。協力し合う事とか、皆で一つのものを作るとかそういうことには長けていますし。でも、まずはその個性を知った上で、破っていくって大事なことですね。」

萩原「単純に『合わせる』と言っても、引き出すとか、寄るとか、そういうニュアンスで考えるようになりました。室内楽は例えば4人とか6人とか…それぞれが持っているもの以上のものが引き出されるようなものじゃないといけないのかなと思っています。そのために色々試行錯誤しているところです。」

朴「室内楽を通して、そういうことまで考えることは、やっぱり人間としての幅も広がるし、音楽の幅も広がりますよね。自分との会話が生まれるものですもんね。」

萩原「感染症で一番辛かったのは、室内楽の機会が奪われたことでした。」(東京芸大は今も、室内楽のリハーサルでさえ厳しい状況)

山内さんはどうですか?

山内「色々勉強していますが、僕も今弦楽四重奏は定期的に取り組んでいます。室内楽って、、何より、、

思いやりを大切にしないとな、って。

自戒の念を込めて。」

萩原・朴「本当その通りですね!!」

山内「音の出し方、その発音…一人だったらなんでも無い良いようなところにしっかり耳を傾けて、思いやってないとまとまらないんですね。」

京芸での新曲初演。いろんな室内楽活動をされているようです!

萩原「言い方一つにしても、考えますよね。」

朴「私も、留学中室内楽をする中で長いこと悩んでいたから、色んなグループや先生に聞きました。どうやったらうまくいくのか。って。

特に、弦楽四重奏って難しい分野なんだと思います。精神的に深いレパートリーだから、その精神と会話しないといけないというのもあるんだろうし。

でもね、若いカルテットから、ベテランで世界中で活躍しているようなカルテットでも、問題が無いところは、なくて。その問題の解決方法をそれぞれに見出して、見つけ出して、トラブルを避けていたり、思いやりを発動させたりして。精神が健康でいれるように、とか音楽が一番良いように、とか優先順位もグループごとに違って。どんなグループでもそうなんだって分かると、仕方ないなと思うようになりました。みんな、努力しているんだなって!」

山内「何も言わずに丸く収めようとすると、できなくも無いんだと思うんですがねぇ…」

朴「それが、音楽の難しいところなんですよね。自分が納得して弾くってことが大事だから。」

萩原「自分が絶対にこうだと思うことは、相手に伝えたいと思いますよね。納得されるかどうかは別として。私は黙ってはいられないです笑」

朴「それもありますね。どうやって説得するかと言うのは重要で。相手と全然違うアイディアだったら説明が必要だし、自分の意見の根拠も必要になってくる‥そうすると、自分のことももっと知るようになってきますよね。パターンもわかってくるというか。」

室内楽は奥深いですね、やはり。これは、定期的に同じメンバーでやっているからこそ見えることだよね。思いやり、大前提で重要なことよね。

コンサートに向けて

大学時代、食堂で。植村(先生!)と弾くのは初めてだそう!

朴「植村先生とのレッスンはどうでしたか?」

萩原「植村先生との最初のレッスンは今でも忘れません。それまでの私は人前で演奏することに対して得体の知れないプレッシャーや、特にレッスンだと上手く弾かなければという意識に囚われてばかりでした。でも植村先生はそんな気持ちを見抜いたのか、すぐに弾かせようとはせず、ヴァイオリンを構えた瞬間どんなことを考えているか、具体的に何に恐怖を感じているのか、そして何のためにヴァイオリンを弾くのか、まだ出会ったばかりの私に、これからの人生に繋がるような言葉を惜しみなくかけて下さいました。不思議と涙が込み上げてきたのをよく覚えています。」

朴「最初のレッスンって、ある意味では本番と似たようなフィーリングになりますもんね。その時に言われることって結構後々まで課題となっていることが多いですよね。その意識を変えられたのは、よかったですね!」

萩原「植村先生との出会いがあったからこそ、今の私がいるのだと断言できます。心から尊敬する師匠と同じ舞台に立たせていただき、その音楽に一番近くで触れられることは、私にとって何物にも代えがたい幸せです。一瞬一瞬を噛み締めながら、その感情を演奏に繋げたいと思います。」

朴「先生と生徒の関係ってその時いっときのものだけではないですもんね。今回のコンサートに向けてはどうですか?」

萩原「演奏会に聴きにいく側としても、弾く側としてもなのですが、今回の感染症の影響で、音楽を受け取る意識が変わったんです。ステージに立つありがたみもだし、聴く側としても、生の音を体に聴かせる感覚、全身で聴きたいなという感覚が生まれました。積極的になりました。お客さんもきっと前までとは違うのではないかなと思っています。

 今このタイミングで、新しく変わっていくのかなと思っています。表現者としても、もっとしないといけないなとも思います。」

朴「とてもよくわかります。何故自分が今ここにいて、という意義みたいなのが、前より明確になりました。」

山内「京芸に進学する時、荒井先生がすごい頑張れ、とにかく頑張れと励ましていただいたんですよね。京都でいろんなことを育てていただいているんです。室内楽の醍醐味を知ったのも、自分が成長しないといけないことも、勉強させていただいていて。その感謝を京都の皆さんに聴いていただけるのはとても嬉しいことです。

自粛後初めてのカルテット練習

 僕、自粛の時一人でずっと楽器を弾いていたのですが、長くなる自粛生活で途中ちょっと疲れて。しばらく休憩、弾かない時期がありました。その時考えてたことなのですが、それまではどちらかというと、人前で弾くということは何かを伝えるってことが大事ということはわかっていたんです。でも自分が音楽を弾いたり聴いたりして、そもそも感動が出来るっていうことは、良いことだなと。感動できるところに自分がいるということに、ふと気付きました。」

朴「感受性って大事ですよね。時にそれは自分を救えることにもなる大事な要素になりますよね。クラシック音楽は、その面でポップスなどとは比べ物にならないパワーがあると思っています。感動する要素って、育まないといけないんですよね。自粛中にそういうことに思い当たったっていうのは、よく分かります。恐らく辛い時期だったんだと思うし・・」

山内「そうですね。その後、そこから、もう一度舞台に立った時に、その感動を人に伝えることでやっと線になるというを感じました、改めて・・。僕一人でできることはなくて。例えば僕と、共演者がいたり、僕とお客さんだったり。そのやりとりがないと意味がないのかなと思っています。」

朴「共演者がいるとかお客さんがいるとか、当たり前だったことが消えて、もう一度化学反応を感じた時、初めて意識的に感じることができましたよね。」

若いお二人に聞きたいこと

メディアやSNSでの音楽の世界についてどう思いますか?

今私は30代で、彼らは23、4歳。彼らの世代って私たちよりも更なるインターネットや電子機器の普及により、私たちとは全く違う価値観を持つことになると思うんです。 

クラシック音楽と、バーチャルの世界について思うことを聞いてみました。

萩原「SNSやYoutubeで流れているものと、生の音楽とバーチャルはやっぱり違うものなんですよね。クラシックを勉強している人は、それが違うものだということは分かって見たり聴いたりするんだろうけれど、クラシックを初めて聴く人が、クラシックとはこういうものだと、捉えられる気もして、怖いなと思いますね。生だともっと良いものもあるし、増えすぎてしまっている気もします。」

朴「バーチャルが生む誤解について、どう埋めていくんだろうと思います。人間についても言えることなんですけどね、その人について知ることができないのに、SNSやインターネットだけで『知った』つもりになるっていう」

萩原「でも感染症などで、この手段しかなかったから、必要だっというのも理解はしてはいます。でも、配信が必ずしも良いかと考えると、やや疑問は残ります。」

朴「生の良さを知って配信を見るのと、インターネットから選ばれて出てくるものを見るのとは、大きな違いがありますね。どう伝えるかはずっと考えていかないといけないですね・」

山内「リモートワーク、僕もやりました。全く知らない人が知るきっかけになるのは良いけれど、是非…会場にも来てください…そういう流れになると良いなと思っています。」

編集後記

お二方とお話しをしていて。最後のSNSの話に辿りついたのですが。

私たちより上の世代というのは、『生きた』ものを一応は知っている世代なんですよね。例えばSNSも、一番楽しいのは60代より上の人たちだと思う。昔の友人とこうやって繋がれて、新しい世界を一番楽しんでるのは、還暦すぎた人たちではないかなと私は実は思っている。まずは、生で知る、ということは大前提だった。

 でも、私たちより下の世代は、SNSやLINE、オンライン配信、人間の世界なように思えて、実はバーチャルの世界とともに成長しています。私たちの時代も、テレビゲームなどの浸透で今後が心配されることがありました。しかし、今は小学生が一人一人携帯を持つようになる時代。まだ価値観も不安定な子供一人一人が、見えない闇を抱えてしまうことになりかねないと思っています。誤解が誤解を生んで、バーチャル上でつまらない価値観が定着しないようにとも、老婆心ながら願っていました。

しかし、インタビューの途中で、萩原さんが「この感染症によって、ある意味ここから変わることになるのかな」とおっしゃった…若い人たちにとっては、無理やりにでも、『人と人との距離を取りなさい』と言われることによって、関われることの奇跡とか、人間の感覚を感じるとか、そういう感覚が生まれたという事なのかな?と。

 だとすると・・それはとてもポジティブな事だと思いました。 この機会に生まれた隙間から、積極的に、『生きた』つながり、『生きた』会話、『生きた』ものを、自分から取りにいく。そういう欲求が生まれたら良いことだと思う。 結局、原点に戻ると答えがあるということが多いのですが、人との関わりにおいても、音楽においても、アナログを大事にはしていきたいなと思っています。

 お二人の世代って本当に、私たちが思いつかないような面白いアイディアをたくさん持っています。これから彼らの世代が作る未来の世界というのは本当に楽しみです!

まずは、12月23日、お越しくださる方、お気をつけていらしてください!

チケットまだ余裕があります。もしご都合つく方は応援に来てくださったら、嬉しいです。

*こんな時期ですので、キャンセルはいつでも承ります。まずは健康が守られることが一番大事と思っております。お気になさらずご連絡いただければ助かります。

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コメント2件

  • 中野信也 より:

    音楽家さんの素の部分や 逆に核心の部分がとても感じることができ 良かったと思います。音楽は人が 思い切り情熱をぶつけて創造する最高の芸術で身近な存在だと思うので
     演奏される音楽家さんがどんな方なのか分かるというのは
    とてもいいいです

    • pakurie.viola より:

      中野様 コメントありがとうございます。励みになります。 その人となりを知って、身近に感じるというのは、私が幼少の頃からしてきた興味の持ち方です。 皆さんにもそうやって身近に感じていただけたらと思っています。 読んでくださってありがとうございました!

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