浄夜/アーノルド・シェーンベルク
この8月に浄夜を弾きます。この曲をこの数年内に勉強したことがある人もしくは、聴きたいなと思ってyoutubeを開けた方は、一度この動画に出会ったことがあるはず。
友人がFacebookでシェアしたのをきっかけで初めて聴きましたが、その当時「カッコいい!!!」と、受けた衝撃は今も覚えてるほど。これ、全員が暗譜なんです。それもさることながら、全員がうねりながら、曲を「体現」してる。そんな感じで驚いたんです。この演奏会、照明も工夫され最初は真っ暗から始まります。その不気味さとかが曲にぴったり。そして、音楽はというと、メンバーがぴったり同じように感じているからか、(私なりの表現ですが)染みやすい。初めて聴いた時も、「伝わる」と思ったことを覚えています。簡単には理解することはできないと思ってたこの曲が、すごく明確に弾かれてる。この人数で、こんなことが可能なのか。と。
その友人はチェリストで、この演奏会では1stチェロを弾いています。子育ても忙しい中、時間を作って話を聞かせてくれた、佐々木潤さん。
佐々木潤さん
現在ヨーテボリのシンフォニーオーケストラで(Co-principal cello=日本語だと、首席アシスタントチェリストと呼ぶかしら。)弾いてらっしゃいます。
以前お会いしたきっかけはプラド(フランス)でのカザルス音楽祭でした。以来約10年ぶりに話しをしました!
このオケでは、よく弾いてたの?
あるオーディションがあって。受かったらこのチェンバーオーケストラ(Norwegian Chamber Orchestra、以下このページでは「チェンバーオケ」と呼びます)とオスローフィルで弾けるっていうスカラシップだった。それで受かって、どっちでも弾けることになった。このチェンバーオケは、プロジェクトオケだから(プロジェクトごとに召集される)決まったメンバーというのがいなくて。ノルウェーにいてた時は頻繁に弾いてたんだけど、今はスウェーデンで仕事があるから、年に何回か一緒に弾いているかな~。
このチェンバーオケはいつも暗譜で弾いてるの?
いつもじゃないけど、例えばこの浄夜は5年くらい前に最初弾き始めて、この動画で弾いているのは5回目のプロジェクトとかだと思う。メンバーはほとんど変わらないんだけど、都合がつかなくて、違う人が入る時もある。出来るだけ同じメンバーで、ということにはなってるんだけどね。
たった一回のコンサートってわけではないよね、やっぱり。
初めてやるときは、本当に暗譜でこれやるの?って感じで。1回目のリハーサルで、いや、出来ないなってなるんじゃないかなって思ってた! 最初のリハーサルから暗譜で弾けるように、って最初のメールに書かれてたんだよね。
笑!無理ってなる、と思ったんだ。笑 正直、私もヨーロッパの中でこういう企画があると、無理じゃないかなって脳裏をかすめると思う。不思議と、日本でこういう企画があると、多分みんな準備してくるだろうな、と思うんですが。何となく。でも、なるほど。じゃないと不可能だよねぇ。リハやりながら覚えるのって。
最初はセミナーという形で集まって。暗譜でやる意味っていうのは 大きな意味の一つとして譜面台を無くす。つまり、聴衆とのコネクションをすごく大事にする、っていうのがあるんだよね。
そのセミナーの中で、メンバーと一緒にヨガやったりとか、メンバー達のコネクションも作っていった。。マイムアーティスト(エモーショナルな身体表現、何らかの感情を伴った身体表現だそうです▶参照)が来て プレゼンテーションしてくれたわけ。
そこでみんなでやったのが、一人一人自分にとってすごく大事な経験や記憶をみんなに伝える。とか。intimate connection(親密な関係) をメンバーの間で作るという作業かな。そのワークショップでたくさんやった。
そんなところから取り組んでいたとは、想像しなかったから、かなりびっくりしました。心の内を吐露する…なかなか仕事の間では行わない作業ですよね。
「ただの仕事」としてはできないプロジェクトだなとは思いました。それぞれの意識と、そこに向かうモチベーション。それがすごく必要だと思った。でもこの演奏を聴くと、こういった背景があったのも納得です。
リハは沢山したよ~。その他にも、グリーグのホルベルク組曲とか必ず暗譜で弾いてたり。シュトラウスの「メタモルフォーゼン」とかも。最近ショスタコーヴィチの室内楽交響曲もやったし。
それも暗譜で?
そう
いつも、セミナーをやってから、コンサートをするの?(こういう斬新なコンセプトを持ったコンサートをする人たちに興味がすごくある。)
いや、いつもではないかな。例えば、そのショスタコーヴィッチのプロジェクトの時は、ヨガの先生が来て、一緒にやったかな。普通のクラシックのコンサートで見ないような、アイディアを沢山だしてるよね。
ここぞ、という時は心身ともに、皆が揃うようにしている感じかなと、理解しました。毎回コンセプトがあったり、特別なものを作っているの?
普通のコンサート(典型的なクラシックの音楽会)っていう時もあるけど、こういう変わったのもあるって感じ。
ちなみにこの浄夜は、セミナーも含め、初めての公演までにどれくらいのリハーサルをしたの?
セミナーの他に、2週間はしてないけど。それでも1週間以上、毎日4時間とかやったんじゃないかな。
家でかなり練習したでしょう?
うん、かなり練習した。リハーサルの時点で絶対無理だと思ってたけど意外といけて。音楽家としての、集中(注目)するポイントが変わってくるというか。そういうのもあると思うんだよね。暗譜でアンサンブルするって。つまり、間違えることを怖がるんじゃなくて、一つ一つの音に集中するっていうか。例えば、経験することも全然違うし。一番前列にチェロがいたりね。あるコンサートでは、チェロが1メートルくらい前に座ってたこともあった。
普通のコンサートだったら、楽譜見ながらメンバー見ながら音楽やっていくというか。こっち見たり、あっち見たり、じゃない?この場合、チェロ振り返らないとメンバー見えないからね。笑 耳を単にめちゃくちゃよく使う。あと、信頼というか。弾いてる時に誰かは間違うわけよ。暗譜だから。でも注目するのは、そこじゃなくて、あくまでパフォーマンスをするということに集中する。
むしろ、その音楽の景色や、音楽で伝えたいことに集中しないと、迷子になっちゃうね。
そう、間違えない方がいいんだけど、そこじゃないっていうか。
浄夜って、詩がもともとあるじゃない?最初のプロジェクトの時は、照明とかも考えて。中間部、Ddurに変わるところで、照明が変わるでしょう?そういうのも、効果的に伝わるように考えてあるし。あと、ちょっと演技もやってるんだよね。マイムアーティストが来たっていう、その意味はね、そういうのもあって。
あの照明の使い方、真似できないかな~ってちょっと思ってた。
例えば、詩の中で
女がうつむき憂鬱に伝える。その男に、「自分は身ごもっている」と
って場面あるでしょ?この場面では、皆が下を向いて(そのことを最大限に表現できるよう)顔や体を使っても表現する。というか。普通のオケだったら、後ろの方で、正直全然ちがう表現やってる人いるじゃない?姿勢がね、だらしなかったり。 別にいいんだけど!笑 みんなで同じ動きをする、弓の動きをそろえる。とか、表現として、みんなで取り組んだかな。
でもそれは、思った。全員の情熱がそろっているっていうか。全員同じように感じているんだなっていうのは、伝わってくる。
そうそう、雰囲気もね。そこに集中してたかな。
そうやってできてたのね、あの演奏が。今、この曲に丁度取り組んでて。改めてみると、(このチェンバーオケのものが)どうやって可能なんだろうって、すごく思ったのね。
そうだよね~あれ、難しいからさ、毎回練習しないといけないのも確か。もう慣れたメンバーでやるから、リハーサルは1・2日だけってことも多いけど。初めて弾くメンバーがいると、かなりめげるんじゃないかな。
そりゃそうだ!!!
慣れてる人は、できちゃうからいいけど。あと、自分は1stチェロしか弾いたことないんだけど、あれ、2ndチェロだと大変だよね。
そう、私今度2ndヴィオラ弾くんだけど、これさすがに楽譜見ないのって大変じゃない?と思って聴いてた。
そうそう、あれ笑!何回この音を弾くんだ、とか覚えてるらしい。やる度、やっぱりそれは大変だね。こないだやったショスタコーヴィチの室内楽交響曲なんかは、楽譜みて弾くのは簡単なのよ。それでさえ、結局難しい部分もいっぱい出てくる。構成も覚えないといけない
これは誰のアイディアなの?
音楽監督のテネーワトソン。オスローフィルのコンサートマスターで、このオケを作った人なんだよね。あの人のアイディアだね、ほとんど。オーストラリア・チェンバーオケって知ってる?
しってる!以前YouTubeで見たことがありました。
それがやってるアイディアここでも使ったりしてるよ~。こないだ、そっちでやってたベートーヴェンのクロイツェルソナタを弦楽合奏版でやるってやつやって。死ぬほどチェロが難しかった。
それも暗譜で?
いや!!無理!!!笑
あ、無理か。(一度ベルリンで聴いたことがありますが、これチェロが特別に難しい編曲になってるそうです。)
楽譜見た瞬間にこれやる価値あるのか、本当にわからなかった!それくらい難しかったよ~
忙しいのに、沢山興味深い話をしてくれた、佐々木さんにすごく感謝。ありがとうございます!!!!自分の演奏や、今後に生かそうと思います。いただきたいアイディアがいっぱいで、脳が活性化しました。もし、YouTubeも見てくださった方がいらっしゃったら。。一つの演奏から、ここまでの背景があったと想像できてた人っていましたか?
また、SNSでつながっていたり、友人と同じ学校だったりした時期もあったものの、10年もの間実際には直接話すこともなかったのに、こうやって話してみる(テレビ電話→死語?Video call というもの)と、10年も前だったのか?!っていうくらい、この浄夜のことで盛り上げれる。。そのことに自分も笑えました。 興奮ポイントは音楽家なら、誰でもどこでも変わんないんだなと。じゅんくんが全然変わらないでいてくれたのも嬉しかったです。
ここで、潤くんの息子(1歳)が会話に仲間入り。可愛い息子さんを紹介してくれました。 めちゃくちゃ、かわいかったです!!!!!
2019年8月17日
主宰者 真由子さんと、先週夜な夜なこの「浄夜」について語り合うという時がございました。みんなが熱はいるこの「浄夜」は弦楽器奏者にとって特別な存在です。
●Ensemble Amoibe 第20回公演●
【Verklärte Nacht】
2019年8月17日(土) 17:00開演 / 16:30開場 日本聖公会 京都聖マリア教会 (京都市左京区岡崎入江町84) 一般3,000円/学生2000円 [当日500円増]
石上 真由子,森岡 聡(vn) 野澤 匠,朴 梨恵(va) 諸岡 拓見,山根 風仁(vc)
是非おこしくださいませ♪
浄夜 については、また改めて書きたいと思います。調べていると、私も色々な書物に出会いました。
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